2021/05/29

美学は日常にしか存在しない -Elegant short story- Vol.1



気持ちの良い午後だ

窓からは穏やかな陽光を感じ

眼下には碧く煌めく海が広がる

テラスに出て反対側を見渡せば

豊かな緑と山を仰ぎ見ることができる

海と山が見渡せるこの街が好きだ

改めてそう思った


先ほどから店内ではクラシックの

ミニコンサートが行われている

チェロの温かく豊かな響きに

しばらくうっとりと聴き入っていた

美しい音楽とはなんと心地よいのだろう

チェリストの息遣いと美しい指の動きにまで

思わず美学を見出していることにおかしいと思いながらも

彼を見つめ、美しい音楽に浸っていた


先ほど渡されたメニュー表をやっと開き

スパークリングワインを頼んだ

「こちらをお願い致します」

メニューを返すときの微笑みはもう癖になっているが

スタッフは少し照れながらも微笑み返してくれた


肩越しに少し視線を感じた

その先をゆっくりと振り返って見ると

うら若き美しい女性が足元を見て

そしてゆっくりと視線を上げていた


Louboutinのハイヒール

そして美しく組まれた脚

すっと伸びた背筋

振り返った顔は肩と顎が一直線に並び

美しいシルエットを描いている

そこにエレガントなオーラを感じ

彼女は憧れの眼差しで見ていたのだろう


坂の多いこの街でハイヒールは苦労するが

それが良い訓練となっている

ハイヒールは如何なるときも

女性としての高揚感を与えてくれる

それにハイヒールのおかげで

健康、そして美意識を保つこともできる

人生の相棒である


加えて美しさの意識も忘れない

振り返るときや微笑むといった

ちょっとした仕草にこそ

美しさの世界があることを知っているからだ


運ばれてきたワインを口にしながら

暫くゆったりと優雅な時間を過ごしていた


ふと時間が気になり、腕時計を見る

もちろんその仕草もエレガントである

添えられた指先まで美しく伸び

側から見るとそこだけ時が止まったかのようである

今はスマートフォンでも時間は確認できるが

そこは敢えて腕時計を見る

そうすることで美しい世界を自分で創り出しているのだ


この後夕方から予定がある

名残惜しいがワインを飲み終えたところで

スッと立ち上がりテーブルを後にした

立ち去った後の残り香が

美しい余韻を残していた


To be continued...


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